次は伏見のお酒の話。
今回お話くださった三人は、いずれも江戸時代から続く歴史ある酒蔵の方々です。
「伏見の酒の魅力はなんといっても水にある」と語るのは、米、水、麹とすべて京都のもので造られた純米酒「花洛」を醸す招德酒造の杜氏・大塚真帆さん。
正保二年(1645年)から酒造りを始め、大正中期から伏見に移ったという酒蔵で、特定名称酒はすべて純米で造ることにこだわっています。
大塚「うちは敷地内にある井戸から汲み上げたお水を仕込み水として使っています。伏見の水は口当たりがやわらかくお酒もまろやかに仕上がります。それが伏見の酒は女酒と言われる所以です」
そんな招德酒造が酒造りにおいて大切にしていることは
大塚「お料理と一緒に飲んでいただくことで美味しさが倍増するようなお酒を目指しています」
次にお話いただいたのは玉乃光酒造の山川結さん。
最近は酒蔵同士の交流が盛んになってきたと感じているそうです。
山川「伏見全体で盛り上げていこうという心が、今後につながって行けば良いなと思います」
玉乃光酒造は延宝元年(1673年)に誕生した酒蔵。
純米吟醸と純米大吟醸しか作らない、酒米は自社で精米する、機械を使わず人の手で麹をつくるなど、細部にこだわった酒造りをしています。
山川「麹は機械を使わず人の手を入れて作っています。麹米に納豆菌が繁殖すると麹がダメになってしまうので、酒造りの期間に入ったら納豆を食べられないんですよ」
酒造りは分業で行われますが、手が足りないときは互いに協力し合うため、麹担当でなくても納豆は食べないのだとか。
そんな玉乃光酒造が作るのは、決して派手ではないけれど飽きのこないお酒。
食卓の定番となるようなお酒です。
最後は銘酒「富翁」で知られる北川本家。
江戸時代、宇治川沿いの豊後橋あたりで船宿を営んでいた初代当主が客に出すための酒を造り始めたことが北川本家の酒造りの原点です。
十四代目当主の北川幸宏さんは伏見の歴史について語りました。
「秀吉が伏見城を築き、徳川家康、秀忠、家光の時代まで伏見は政(まつりごと)の中心でした。人が集まれば酒を造ろうということになる、造ってみたら水が良かったというのが伏見の酒造りの歴史だと思っています」
明暦三年の創業以来ずっと伏見で酒造りを行っている北川本家のこだわりは「でしゃばらない」お酒。
北川「京料理のお出汁の文化と同じです。必要だけれどでしゃばらない、目立ちすぎない。そういうお酒を作っています」
お料理やおつまみとのペアリングでより美味しさが増すお酒。
決してでしゃばらない、やさしくふくよかな味わいのお酒。
伏見のお酒ははんなりとした京都の女性を思わせます。