心眼で、音をまなざす。
SOUND TRIP

3つのチャプターからなる
心を巡礼するロードムービー、
そのサウンドトラック。

千年の都、京都。八百万の神々が君臨し、幾千もの仏が教えを授けたこの古代都市には、貴族たちの雅やかな平安絵巻と、武士たちが繰り広げてきた栄枯盛衰、そして市井の人々のささやかな祈りが、幾層にも織り重なるかたちで紡がれてきた豊かな物語に満ちている。
SOUND TRIPは、そうした京の物語のメインステージである寺院や神社を舞台に展開していく。「三千院」「壬生寺」「貴船神社」。京都を代表するそれら寺院や神社の、さらにその一角に設置されたブースに半眼の状態で座り、ヘッドフォンで現実世界の音をシャットアウトする。そして耳を伝わって身体のなかに流れ込んでくる音に耳を澄ます。すると、三半規管が揺らぎ、五感が次第に曖昧になってゆく。眼の前にある現実世界と、自分のなかにある記憶やさまざまなイマージュが、ゆるやかに溶け合っていくのをあなたは感じることだろう。心の眼で音をまなざす、という体験。それは一種の悟りの感覚のようなものかもしれない。
もしかしたら、ヘッドフォンを通じて聴こえているのは、心のずっと奥のほうで、ごく静かなヴォリュームで鳴り続けているあなた自身の声かもしれない。「物語のある音楽を作るプロジェクト SOUND TRIP」。それは、あなたの心のなかを巡礼するロードムービーのサウンドトラックである。

■SOUND TRIPの手順
①現地のSOUND TRIP専用ブースに座る
②指定のボックスに体験料を入れる(300円)
③ヘッドフォンをつけて再生ボタンを押す
④目の前の景色と向き合い、音でトリップ

【Chapter One】

ブッダを讃えよ。祈りを捧げよ。

― 癒しの森で出会った、仏教の賛美歌 編

三千院

「一念三千」を可視化する、声明と自然の共鳴。

三千院は転居を繰り返してきた「旅する寺」である。860年の創建以来、比叡山の麓の町である坂本や、京都の紫野などに居を構え、ここ大原へと移転し、居を定めたのは明治以降になってからのことだった。

そもそも三千院の名は、一瞬一瞬の心の動きのなかに三千の世界(森羅万象)が宿るという「一念三千」という天台宗の教義から取られた。言い換えれば、私たち一人ひとりの心にそれぞれ三千の世界があり、その動きや表現はそれぞれに異なるということでもあるのだろう。現代に置き換えてみよう。SNSを眺めていて気づくのは人の意見は千差万別。同じものを見ても、見る人によって感じ方は異なるものだということだ。三千院の名のもととなった「一念三千」は、そうした人の心こそが世界であるということを表した言葉で、まるで現代のSNS的世界の到来を予言したかのような、仏教の教えを由来としている。
実際に三千院の境内を歩くと、まさにその教えの意味が理解できる。広大な森とその足元に息づく小さな苔、鳥の声、水の音、風の歌、木々の囁き。そして、極楽浄土の歓喜を思わせる観音菩薩の微笑み。そうした小さき世界から大きな世界まで、多様な異世界もすべて、己の心の一念から発し、すべては繋がっているのだと。

大原はもともと、都の戦乱から逃げ延びてきた女性や、敗走してきた兵たちを癒してきた土地だった。平清盛の娘で高倉天皇の皇后だった建礼門院は、平家没落とともに京の都を追われ、ここ大原の地で隠棲したと伝えられている。また、平安時代から鎌倉時代にかけて、現生の煩わしさを儚んだ多くの皇族や貴族、そして武士や文人たちが大原の里へと住処を移し、隠れ住んできたという歴史を有している場所なのだ。
また、古くから交通の要所でもあり、韓国と日本を結ぶ交易地である若狭と、京の都を結ぶ若狭街道の道中だったことから物流拠点としても栄えた。現代でいえば出張のビジネスマンや物流トラックが行き来する幹線道路沿いの郊外都市ともいえるだろう。

そしてなにより、大原は天台声明の発祥地。融通念仏宗の開祖である良忍という僧侶によって天台声明の道場が開かれている。お経を歌のように唱える声明は、いわば仏教における賛美歌のようなもの。美しい音楽に乗せて仏の教えを民衆に広める役割を担ったという。お堂に響き渡るその厳かな歌声は、貴族や武士のみならず多くの民衆に心の救いと平安を与え、長きにわたって人々を癒してきたことだろう。

もうひとつ、大原が民衆の心を癒してきたものに「阿弥陀信仰」がある。疫病と戦乱で飢饉が起こり、世の中が混乱した時代。人々のあいだで「末法思想」が広まった。末法とは釈迦の教えが途切れ、世が乱れる、いわば「世界の終わり」である。そうした時代背景において死後に救いを求めようとする民衆の心を「阿弥陀信仰」が救った。阿弥陀信仰とは、仏門に入り、修行を終え、悟りを開いた地位の高い僧侶でなくても、南無阿弥陀仏と唱えれば、誰であれ分け隔てなく阿弥陀様が迎えにきて、極楽浄土に迎え入れられるという思想のこと。

「末法の到来」への不安から「阿弥陀信仰」に救いを求めた中世の民衆の心は、コロナウイルスの世界的流行、各地で続く紛争、経済格差など世界中で不安が広がるいっぽうで、ひとりのセレブやスーパースターだけが名声を独占するのではなく、インターネットやSNSを通じて無名の個人が主人公たりうる現代の世相とも重なり合う部分が多いのではないだろうか。

このように大原の里は、時代を超えて人を癒してきた土地である。日々の喧騒から離れ、己と向き合い、心の声に耳を傾け、新しい道を切り拓くのにうってつけの場所なのだ。三千院をはじめとする大原エリアでは、SOUND TRIPデザインの「京都・大原MAP」が配布されている。せっかくなので三千院のみならず、大原の他のスポットにも足を運び、より多くの「癒しの音」に触れてもらいたい。

●三千院 DATA
延暦年間(782年〜806年)に遡る。もともと三千院は大原の地ではなく、天台宗の開祖である最澄が延暦寺建立の際、比叡山の山梨の大木の下に構えた草庵が起こりで、その長い歴史の始まりとされている。その後、近江坂本や京都の中で幾度も移転を繰り返したのち、明治に入ってここ大原に移ってきた。往生極楽院に鎮座する「阿弥陀三尊坐像」は国宝。苔庭には有名な「わらべ地蔵」も。

三千院でしか聴けない音楽

「Shomyo」
by Yoshi Horikawa

天台声明発祥の地である大原。その地を代表する有名な大寺院・三千院。ここで聴くことができる音楽「Shomyo」は、極楽浄土への願いと未来への祈りをテーマに、声明の歌声をメインに、大原の里に棲む鳥たちの声や、川のせせらぎの音、そして代々の僧侶たちが声明の稽古をしたという「音無の滝」などの音をミックスしたもの。

眼の前に見えるのはいくつもの額縁を並べたように小さく区切られたガラス窓。開け放たれた窓から入る柔らかな光と爽やかな風が、そっと身体を撫でている。その向こうには美しい庭がのぞいている。水と、緑と、空と、陽光。それらがひとつに溶け合って、風景そのものが音楽を奏でているようだ。

一念三千の教えを名に冠する三千院。その境内で「Shomyo」に聴き入っていると、まさに三千もの世界を包み込む宇宙のなかで瞑想しているような多幸感に包まれる。ピンと張りつめた緊張感と、無重力空間を漂っているような浮遊感を行ったり来たりする体験を味わってみてほしい。

アーティスト

Yoshi Horikawa

環境音や日常音などを録音し、独自の楽曲をつくるサウンド・クリエイター。2010年、仏Eklektik Records からEP『Touch』でデビュー。2012年のEP『Wandering』2013年の初アルバム『Vapor』共に多数媒体のBest Album of the yearに輝く。またリリースの度にワールドツアーを行い、英Glastonbury Festivalを始めとする世界最大級のフェスティバルにも多数出演。 建築家隈研吾とのコラボレーションやCM・ラジオでの楽曲制作、またサウンドシステムの設計など幅広い分野において活動する国際的音楽家である。 

スポット情報

エリア大原
スポット名三千院
所在地京都市左京区大原来迎院町540
拝観時間無休
午前9:00〜午後5:00
(11月午前8:30〜午後5:00、12月〜2月午前9:00〜午後4:30)
拝観料一般700円、中高生400円、小学生150円
TEL075-744-2531
URLhttp://www.sanzenin.or.jp/

【Chapter Two】

無言の歌。死者の命。

― 千体の仏と志士たちが眠る、弔いの聖地 編

壬生寺

仏の言葉を無言劇に昇華した、祈りと信仰の舞台。

壬生寺は命について、考える場所である。僧侶・快賢が、母の供養のために地蔵菩薩像を本尊として建立したという創建の由来からも、それは伺える。また境内にある千体仏塔は、室町時代からの阿弥陀如来像や地蔵菩薩像など1000体が集められ円錐形に安置されているものだ。
その後、中興の祖・円覚上人が始めた壬生狂言は、無言劇を通じて仏の教えをわかりやすく庶民に伝えたことにより、エンターテインメントとしての人気を誇り、民衆の間に地蔵信仰を広める役割を担った。およそ700年経ったいまも、春と秋にこの壬生狂言が行われている。
そして別名「壬生浪士」と呼ばれるほど新撰組とのゆかりは深く、境内には局長・近藤勇はじめとする新撰組隊士たちの墓所である「壬生塚」がある。そう、ここ壬生寺は冥界の人たちの声に耳を傾ける場所なのだ。

●壬生寺 DATA
991年(正暦2年)創建。本尊である「延命地蔵菩薩像」は白河天皇によって信仰された。毎年2月には「節分厄除大法会」が営まれるほか、春と秋に開かれている壬生狂言は国の重要無形民俗文化財にも指定されている。

壬生寺でしか聴けない音楽

「inks」
by Kyoka

壬生という地名はもともと「水生」と書いて、みぶと呼んでいたことに由来しているという。このあたり一帯は湿地帯で田畑が広がり、壬生菜をはじめとする京野菜の産地でもあったのだ。

Kyokaは、その地名の由来から、日本の戦乱を生きた志士たちが眠る壬生塚にある池の音、水掛地蔵に注がれる水の音、水の生まれる土地にコンコンと湧き出でる水の音、それから天からこの地上へと降り注ぐ雨の音、そこに壬生狂言のお囃子の音色を重ね合わせてこの「inks」をつくった。それは闇の中にゆっくりと波紋を広げていく水滴のイメージにも似ている。

水は、生きとし生けるすべての命を生んだ故郷であり、母が子を宿し、命を育む聖地でもある。阿弥陀如来三尊像を前に、ブースに座り、ヘッドフォンで耳を覆う。音楽の始まりとともに、命の源である水にやさしく包まれるような、みずみずしい安心感に満たされていく心地よさを感じることができるだろう。その音は、命そのものが奏でる音なのかもしれない。

アーティスト

Kyoka

現代の実験 ・電子音楽の最高峰としてそびえ立つレーベル”raster-noton”における、初の女性ソロアーティスト。 ベルリンを拠点に活躍している。そのライブパフォーマンスはファンを虜にし、インスタレーションやApple(世界)などのCM音楽を制作するなど活動が多岐にわたる。 shure x mixcloudの共同企画で、「世界のオーディオ文化の境界線を押し広げるアーティスト24人」に選出され、さらに一般投票でその中のトップアーティストに選ばれた。 

スポット情報

エリア大原
スポット名壬生寺
所在地京都市中京区壬生梛ノ宮町31
拝観時間無休
午前8:30〜午後4:30
拝観料境内は自由
壬生塚100円、歴史資料室200円
TEL075-841-3381
URLhttp://www.mibudera.com/

【Chapter Three】

天に昇る龍。地を遡る船。

―雨と土、ふたつの神が結ぶ、聖なる水源郷 編

貴船神社

水源を求めて海から山へと遡った、「黄船の宮」伝説。

京都の北、奥深い山の頂に、その神社はある。山深い神社であるにもかかわらず、なぜその名に船を冠しているのか。その秘密は、この社の由来にある。初代天皇である神武天皇の母である玉依姫命が「国を潤す雨の源を求めて黄船に乗り、難波津(現在の大阪湾)から淀川、鴨川と遡って、その源流たる水源の地で祠を建て水神を祀る」と語ったという伝説によるものとされている。

また、貴船神社の御祭神である高龗神(たかおかみのかみ)は、水を司る神と言われ、作物に恵みの雨を降らす龍神信仰ともゆかりが深い。
このように貴船神社には、水と関わる伝説や物語に満ちた神秘の場所である。
山の奥地であり、俗世間とは隔絶されているため、ここに街のノイズは届かない。そのため、いたるところから、貴船川の清き水の流れる音が聴こえてくるのだ。ここでは、聴覚が解き放たれる心地よい開放感がある。見るより、語るより、聴くための場所。SOUND TRIPにとっても、まさしく源流のような場所といえるかもしれない。

●貴船神社 DATA
創建年は不明。666年(白鳳6年)にすでに社殿建て替えの記録が残されている。真っ白に見える紙の中から一枚を選び、境内の霊泉に浮かべると吉凶が書かれた文字が浮かび上がる「水占みくじ」も有名。和泉式部が夫の愛を取り戻した逸話が残ることから縁結びの神様としても知られている。

貴船神社でしか聴けない音楽

「宙返り」

by コムアイ & オオルタイチ

貴船神社の御祭神である高龗神(たかおかみのかみ)は本宮に祀られ、奥宮には闇龗神(やみおかみのかみ)が祀られているとの伝承も残されているという。天上から雨を降らす龍神・高龗神(たかおかみのかみ)と、地の底から湧き出る泉を司る龍神・闇龗神(やみおかみのかみ)は、一対の水神であると同時に同一神であるともいわれる。「宙返り」と題されたこの曲は、闇龗神(やみおかみのかみ)が宿るとされる龍穴にマイクを垂らし、その音に思いを巡らせながら作られている。

参道を登りきったすぐの場所に設置されたブースに腰を下ろす。眼前に流れる貴船川の水と、根や枝にたくさんの水をたたえた貴船山の木々を眺めながら、聖地の奥底から湧き出す御神水のように流れ出る音に耳を澄ましてみる。

すると、一対の龍神の咆哮をあなたはきっと耳にすることだろう。そして、貴船という名のもうひとつの由来とされ「万物のエネルギーが生まれる水と、その根源地」としての意味を持つ「氣生根(氣が生れる根)」という言葉の霊的なパワーを感じ取ることになるだろう。

アーティスト

コムアイ(水曜日のカンパネラ)
& オオルタイチ

3人組の音楽ユニット・水曜日のカンパネラでボーカルを務めるコムアイ。そんな彼女と、 オオルタイチが2019年より屋久島とのコラボレーションを試み、一枚のEP「YAKUSHIMA TREASURE」が誕生した。現在、この作品と同名のユニットで二人はライブを重ね、即興性を増し実験を繰り返しながら、ライブと制作を行っている。このユニットの新たな取り組みとして、貴船神社のSOUND TRIPがスタートした。

スポット情報

エリア大原
スポット名貴船神社
所在地京都府京都市左京区鞍馬貴船町180
拝観時間境内は午前6時〜午後8時
社務所は午前9時〜午後5時
拝観料境内無料
TEL075-741-2016
URLhttp://kifunejinja.jp/
(掲載日2020年5月25日 取材:ENJOY KYOTO

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