息をのむ景色と、古刹の歴史。 自分のペースで神護寺を楽しむ。

京都は東、北、西の三方を山に囲まれています。そこからは川が流れ下り、やがて“山紫水明”と呼び称される美しい景観をつくりだしました。
山並みから頭ひとつ抜け出る比叡山を北東に望むように、北西にあるのが愛宕山。

比叡山と同じように愛宕山もまた、古くから信仰の山とされてきたところで、愛宕五寺と呼ばれる5つのお寺が置かれていたそうです。その中のひとつ「高雄山寺」が、今回訪れた神護寺の前身なのだとか。

室町時代の「高雄観楓図屏風」(東京国立博物館蔵)には、すでに、高雄の紅葉を愛でる人々の姿が生き生きと描かれています。昔も今も変わらず、信仰の山であると同時に観光の地でもある高雄山。
その山中で日本の仏教史上に重要な役割を果たしたとされる古刹の歴史と、秋になれば高雄楓が見事に色づく雄大な自然美。そのどちらもを、自分のペースでゆっくり体感してみます。

350段あまりの石段の先に
開かれた伽藍

愛宕山系に連なる高雄山は標高428m。その中腹に開かれているのが神護寺、高野山真言宗の遺迹(ゆいせき)本山です。遺迹本山とは、真言宗の開祖である弘法大師・空海が住まいとした場所を指す言葉だそう。

清滝川にかかる朱塗りの欄干も鮮やかな高雄橋を渡り、神護寺への参道である石段を上っていきます。その数、350段あまり。息を切らしながら上りきり、ようやく楼門に到着。脇間に安置された持国天と増長天に迎えられて、まずは受付で音声ガイドと特別御朱印などを受け取ります。

楼門をくぐって境内へ。まず驚くのは、想像以上のその広さ。もちろん起伏はあるものの、石段を上ってきたことを思うと、ほとんど気にならないほど平らに開かれた境内に伽藍が建ち並びます。ここが山の中腹であることを忘れてしまいそうです。

ちなみに境内の面積は、約20万㎡(約6万坪)。東京ドーム4個分だそう。かつての神護寺は、今よりさらに広大だったといい、山寺ではなく、まさしく山岳寺院だったのでしょう。

音声ガイドを聞きながら、境内をのんびりと散策します。

古刹がたどった変遷に
最澄と空海の足跡をしのぶ

神護寺の始まりは古く、もとは奈良時代から平安時代初期にかけて活躍した和気清麻呂が建立した私寺で、高雄山寺と呼ばれていたそうです。ときは8世紀の終わり、平安遷都の少し前のことでした。和気清麻呂は平安京造営に尽力した人物であり、境内には清麻呂の墓所があります。

その後、天長元年(824)に、やはり清麻呂が河内に建立していた神願寺を高雄山に移し、高雄山寺と合併。そうして誕生したのが「神護国祚真言寺(じんごこくそしんごんじ)」、略して「神護寺」です。

神護寺と名が改まるより以前、まだ高雄山寺と呼ばれていた頃のこと。このお寺では、伝教大師・最澄と弘法大師・空海という、平安仏教における傑出した2人の僧との交流があったと伝えられています。

比叡山中にこもって修行を続けていた最澄に、高雄山寺での法華経の講義を依頼。平安仏教の第一声ともいえるこの講義のあと、最澄は唐に渡り帰国、後に天台宗の開祖となります。
同じ時に空海も唐へ留学しており、最澄に遅れて帰国したあとの大同4年(809)に高雄山寺に入山。東寺を拝領して拠点とするまでの14年間をこの地で過ごし、真言宗立教の基礎を築いたのです。

また、空海は、密教の重要儀式である“灌頂(かんじょう)”を最澄に対しても行うなど数年にわたって親交が続けられ、天台と真言の交流に進展していったそうです。

音声ガイドを聞きながら
まずは境内を散策

一時期、荒廃しましたが、平安時代末期に文覚上人が奔走。後白河法皇や源頼朝などの援助を得て、復興を果たします。
応仁の乱の際には、ほかの京都の寺院と同じように多くの建物を焼失し、江戸時代に再興されたそうです。

そんなお話を音声ガイドで聞きながら、境内を巡ります。

「毘沙門堂」や「五大堂」、高雄山寺時代の空海の住まいを由緒とする「大師堂(重文)」など、ふだんは非公開で内部を拝観することはできませんが、ガイドを聞き、当時に思いを馳せながら見て回るというのも楽しいものです。

「大師堂」や「多宝塔」、また所蔵する寺宝などは特別に公開されることもあるので、その機会を逃さず再訪したいと思いました。

この気持ちよさはハズせない
「かわらけ投げ」

境内の西奥、山の斜面に「地蔵院」があります。このあたりからの眺望はほんとうに素晴らしく、眼下には錦雲峡と呼ばれる渓谷が広がります。
錦の雲が広がる渓谷──紅葉の季節にはまさに絶景となるのでしょう。

この錦雲峡に向けて、厄除けなどの願いを込めて素焼きの皿を投げる「かわらけ投げ」ははずせません。

はるか下を流れる清滝川に向かって皿を投げれば、いい気分転換になりそう。
フリスビーの要領で投げるといいそうですが、フラフラ揺れたり、まっすぐ下に落ちていったり、なかなかうまく投げられません。
でも、風に乗って遠くまで飛ばせたら、それはほんとうに気持ちいいに違いありません。

今では、全国あちこちの高台にある絶景ポイントで行われている「かわらけ投げ」。その発祥地が神護寺なのだそうです。

まさに息をのむばかり
「金堂」の荘厳

境内に戻り、神護寺めぐりのしめくくりに「金堂」を拝観します。

「五大堂」北側の見上げる石段の上、一段と高い場所に堂々たる佇まいを見せるのが、本堂である「金堂」。昭和10年(1935)に建立された建物で、入母屋造り、本瓦葺きの偉容は、昭和仏堂建築の傑作とされています。

小組格子(こぐみごうし)の天井、平安時代さながらの宝相華文様(ほうそうげもんよう)の繧繝彩色(うんげんさいしき)が施された長押や柱など、まさしく荘厳を尽くした堂内。その壮麗な美しさには息をのむばかりです。

堂内奥に設けられた須弥壇上の厨子に安置されているのは、本尊の薬師如来立像(国宝)。その左右には日光菩薩立像、月光菩薩立像(ともに重文)が控えています。

平安時代の作とされる三尊像を守護するように、左右に四天王像と十二神将像が並びます。こちらは室町時代の作だそう。

堂内の繧繝彩色と十二神将たちの鮮やかな彩りが響きあい、圧倒されるほど華麗で、それでいて荘厳な空間を生み出しているようです。

神護寺の余韻を連れて帰る
SOUND TRIP

そういえば、受付でSOUND TRIPのカードをいただいていました。
これは、神護寺境内のあちこちで採取した音やメロディーをソースにアーティストが創りあげた、オリジナルサウンドを聴けるものなのだそう。カードに記載されたコードを自分のスマホに入力することで、いつでも、どこにいても聴くことができるのです。

今日は神護寺「金堂」の入り口に座って聴きました。
「金堂」を歩くと響く床鳴りの音に被さるメロディー、楽器が奏でる素朴な音や、癒されるボーカルが響き合い、奏で合う幻想的な音世界は、まさしくSOUND TRIP、音の旅。

堂内では写経をすることもできますが、“音”で心を鎮め、瞑想する、新しいお寺の楽しみ方かもしれません。

カードのアクセスコードとともに、神護寺で感じた余韻を自宅に連れて帰ります。

スポット情報

エリア名高雄
場所神護寺
所在地京都府京都市右京区梅ケ畑高雄町5
アクセスJRバス「山城高雄」下車徒歩約20分
拝観時間9:00~17:00(受付終了16:00)
拝観料600円
TEL075-861-1769(神護寺)

(掲載日:2020年11月16日 取材:とっておきの京都プロジェクト

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