もみじの名所 浄住寺で特別拝観と坐禅体験

モミジと竹と中国様式
他の人には教えたくない魅力スポット

誰もがその名前を知っている有名寺院をはじめ、京都にはたくさんのお寺があります。その多くは市中の住宅地など日常生活に隣接する場所にあって、桜や紅葉や、四季折々の花々の、知る人ぞ知る名所として密かな人気を集めていることが多いようです。

西京にある浄住寺も、そんなお寺のひとつ。隠れた紅葉スポットとして人気上昇中です。

そして浄住寺の魅力は、境内の景観の素晴らしさだけではありません。
中国由来の禅宗・黄檗宗のお寺ならではの特徴的な寺院様式、さまざまな変遷を重ねたその歴史、さらに坐禅体験まで・・・。

そんな、通常は非公開のあれこれをご住職に解説していただきながら拝観し、また体験できるプランがあることを知り、さっそく予約のうえ訪ねました。
1日3回で、各回1組限定。しかも1組につき最大6名での貸切りだから、プライベート感たっぷり。とっておきの時間のはじまりです。

中国様式の禅宗
その独特のスタイル

道路に面して「葉室山浄住寺」と刻まれた石柱が建つ入り口から山門を見ると、その向こうに石段が伸びているのがわかります。参道の石段がまっすぐ向かう先は、浄住寺の本堂。
両側から茂るモミジに覆われてトンネルのようになった石段を上っていきます。紅葉シーズンにはさぞ見事に色づくのだろうな、青モミジの季節も美しさでは負けていないはず・・・。そんなふうに思いながら上りきった石段の正面に姿を現す、特徴的な建物。浄住寺の本堂です。

葉室山(はむろざん)浄住寺。臨済宗、曹洞宗と並ぶ日本の禅宗のひとつ、黄檗宗のお寺です。

黄檗宗は、江戸時代の承応3年(1654)、中国から渡来した隠元禅師によってはじめられました。宇治にある本山・黄檗山萬福寺が有名です。ほかの禅宗とは異なる黄檗宗ならではの特色は、中国的な様式を色濃く残していることでしょうか。

ちなみに隠元禅師は宗教だけでなく、生活に根づいたものも中国から持ってこられたそうです。そのひとつが、食事の様式。椅子に腰掛けてテーブルで食事をするスタイルは、隠元禅師が伝えたのだそう。レンコンやスイカ、タケノコ、インゲン豆なども隠元禅師から日本にもたらされたものといわれています。

浄住寺は、隠元禅師の孫弟子に当たる鉄牛(てつぎゅう)禅師によって、黄檗宗のお寺として再興されたのだとか。

時を超え、宗派を代えて、3度の開山

現在は黄檗宗の寺院である浄住寺ですが、ここに至るまでには紆余曲折の長い歴史があったといいます。

その開創は、平安時代の弘仁元年(810)まで遡ります。もともとは嵯峨天皇の勅願寺として、慈覚大師円仁(えんにん)によって開かれました。当時は「常住寺」という名の天台宗のお寺でした。

その後は寺勢を失い、公家の葉室家の別荘となっていましたが、弘長元年(1261)、葉室定嗣(さだつぐ)が奈良・西大寺の叡尊(えいそん)を招いて復興。名を「浄住寺」とあらためます。
叡尊は真言律宗の開祖であり、律宗寺院としての再出発となりました。

ところが南北朝時代以降、京都のほかの寺院と同じように、浄住寺もたびたび兵火に見舞われ、3回も焼き討ちに遭った結果、全山が焼失し、何も残っていない状態になってしまったそうです。

そうした時代を経て、江戸時代に入り、もう一度復興させようという機運が高まります。そこで当時の葉室家の当主が深く帰依していた黄檗宗の鉄牛禅師を招き入れて、元禄2年(1689年)浄住寺は黄檗宗の寺院として再々スタートを切ったのです。1690年頃、元禄年間のことでした。

天台宗から真言律宗、そして黄檗宗のお寺となって現在、令和の時代。変遷はいろいろありましたが、しなやかに生き抜いてきたお寺です。
「私で75代目とされているのですが、初代からの系図が分からないのが残念です。紆余曲折の歴史のなかで、史料もほとんど残っていませんから」。ご住職はほんとうに残念そうに話してくださいました。

黄檗宗ならではの
賑やかな法要、中国語のお経

最初にご案内いただいた本堂は土間になっています。中国のお寺はもともと靴を履いたまま入るスタイルなのだそうですが、畳や板敷きで靴を脱いで上がるお堂しか知らないと、このスタイルにはまず驚いてしまいます。

本堂中央にはご本尊の釈迦牟尼仏坐像が安置されています。どこか中国風の仏像は2018年に修復を終えたばかりで、金色の輝きも美しく鮮やかです。

お堂の両側面には坐禅を組むための板間が設けられています。
「鉄牛禅師は本堂と禅堂を別々につくりたかったのですが、何か理由があったのでしょう」とご住職。
祈りの場と修行の場が一体となった、独特の空気が満ちる空間です。

黄檗宗は中国的な特徴を色濃く残しているとのことですが、仏像の様式や建物の意匠だけでなく、儀式作法やお経なども中国スタイルなのだそう。

たとえば五体投地の拝礼や、木魚やおりんだけでなく鐘や太鼓などさまざまな鳴り物とお経が協奏する、非常に賑やかな法要。
とくに特徴的なのがお経で、中国語で唱えられます。唐音と呼ばれる明の時代の発音です。
たとえば「般若心経」。日本語なら「まかはんにゃはらみたしんぎょう・・・」と唱えるところ、「ポゼポロミトシンキン・・・」というふうに唱えられるのです。

「黄檗宗の僧侶は、ひとつのお経について2種類の唱え方を覚えなければならないので、大変なのです」。それはほんとうに大変です。

体と呼吸と心をととのえる
初めての坐禅体験

浄住寺の歴史や黄檗宗についてご説明いただいたところで、坐禅体験です。
「まずスマホの電源をオフにしてくださいね」とご住職。

坐禅が初めての人でも、座り方や脚の組み方から教えてくださるので安心です。ちなみに私は初めての坐禅です。

黄檗宗では、ととのえるものが3つあるそうです。それは、調身(からだ)、調息(呼吸)、調心(こころ)。これらを坐禅によってととのえていきます。

調身では脚の組み方から教わります。脚が痛むようならふつうの胡座(あぐら)でもOKだそう。坐禅を組む間、保持できることが大事だと教えてくださいました。
また黄檗宗では坐禅中、目を閉じないそうです。背すじを伸ばし、あごを引いて、うっすら目を開けた半眼の状態で1~1.5mぐらい先を見る感じです。

調息では、数息観(すうそくかん)といって、自分の呼吸に合わせて数を数えます。深い呼吸に合わせて1から10まで数えたら、また1に戻る。ひとーーーーつ、ふたーーーーつ・・・と、かなりゆっくり数えていきます。

そして調心。調息を繰り返すことで、心をととのえていきます。

初めての坐禅は、約15分間。思いのほか短く感じました。ほんとうにあっという間。それだけ集中できていたということでしょうか。

もう1セット希望する場合は、プラス20分の坐禅となるそうです。

伝説に彩られた
中国様式の諸堂が並ぶ

坐禅のあと、お堂の中をひとめぐり。

ご本尊の後方左右にも仏像が安置されています。
全身朱色の「達磨大師像」、黄檗宗になる以前のご本尊ではないかといわれる「古伽藍本尊」、修行中の釈迦の姿を表した「出山釈迦像」、さらに律宗時代の尊像と伝わる「阿弥陀如来立像」、「伽藍菩薩像」、「葉室頼孝卿像」。

確かな史料が伝わっていないため、「こうであろう、こうだったのではないか。そんな解説しかできないのが残念」と、ご住職。

本堂の奥には、手前から「位牌堂」、「開山堂」、「寿塔(じゅとう)と、黄檗宗寺院ならではの中国風の諸堂が階段状に一列に並んでいます。
実は本堂後方の3つのお堂は、本堂を拝観できる「秋の特別公開」の際にも中に入って拝観することができません。このプランでだけご案内いただけるのです。

歴代住職が預かった位牌や葉室家の位牌などが並ぶ「位牌堂」。開山堂には中国式の厨子が置かれ、なかに祀られている鉄牛禅師を間近で拝観することができます。

さらに奥の「寿塔」は石窟になっており、扉を開けることはないそうです。
南北朝時代を中心とした軍記物語「太平記」の第8巻に、捷疾鬼(しょうしつき)という鬼神に奪われた釈尊の1本の歯が中国から日本へ渡り、嵯峨天皇によって浄住寺の石窟に安置されたというエピソードが収められているそう。これはちょっと読んでいたいかも。

本堂から寿塔までの4つのお堂は、京都市の有形文化財に指定されています。

伊達家ゆかりの武家屋敷が方丈に

「方丈」は、仙台藩4代藩主・伊達綱村が幼少期を過ごした屋敷が寄進されたものと伝えられています。江戸にあった屋敷を解体して運び、移築したそうです。

歩くとキュキュッと鳴る鶯張りの廊下は、武家屋敷ならではの名残。また有名なお家騒動「伊達騒動」で幼い綱村が命を狙われることもあったのでしょう。床の間の壁に設けられた穴から綱村が脱出するための仕掛け「武者隠し」が残っています。

ほかにも、狩野永岳筆の衝立「雲龍図」なども必見です。迫力があるのに、どこかユーモラスな表情をじっくり拝観できました。

結界に使われている、ちょっと変わった形の竹を発見。これはなんでしょう。
「亀甲竹といいます。節の形が亀の甲羅のようでしょ。人が手を加えたわけでもないのに、自然にこんな形になるのです。孟宗竹の突然変異種といわれています」。
「ほかにも、断面が菱形になる四方竹(しほうちく)という細竹もあります。どちらも参道脇に自生しているので、帰りに見ていってください」と教えてくれました。

池泉式の方丈庭園を眺めながら
お煎茶で和むひととき

方丈と本堂の間には、西山のふもとという地形を生かした池泉式の庭が配されています。本堂のすぐ横に大きな池泉式庭園があるのは珍しいそうです。

禅宗寺院の場合、臨済宗や曹洞宗では、大きな伽藍に大きな庭園というスタイルが見られますが、池や水ではなく砂を敷きつめた枯山水が多いそう。
一方、黄檗宗では、庭の文化に対して造詣があまり深くありません。

そうした黄檗宗のお寺で、なおかつ本堂横に池泉式の庭があるという構造はあまり例がないことから、「そこに文化的な価値を見出していただいたのでしょう。2018年に京都市の名勝に指定されました」とお話しくださいました。

紅葉の季節、青葉の頃、苔の時期、雪をかぶる姿、どの季節にも美しい景観を見せてくれそうです。5~6月頃には睡蓮が咲くと教えてくださいました。白だけではなく、赤や薄紅の花も咲くそうで、その景色もぜひ楽しみに訪れたいものです。

そんなお話を聞きながら、お茶で一服。浄住寺ではお抹茶ではなくお煎茶です。
もともと黄檗宗にはお煎茶のルーツがあり、黄檗宗の僧侶が市井に広めたという歴史をもつそう。

方丈には、お茶が描かれた襖絵があります。学問をしたり詩をつくったりしているのでしょうか。その傍らにお茶が描かれ、語らいながらお茶を楽しんでいる。そんな様子を見て取れるような気がします。

「あくまでお茶が主体ではない。お茶を飲みながら語らい、思い思いのことをする。それがお煎茶の醍醐味なんですよ」。
そんなご住職の言葉を聞きながら、まさに今が、歓談を楽しみながら傍らにお茶があるという、素敵な時間。

いただいた特別御朱印とポストカードとともに、和やかで贅沢なひとときの余韻を、お土産にもって帰ります。

\記事のプランを体験できます/

今回紹介したプランを体験したい方は、下記より事前にご予約いただけます。
※一部変更または季節により一時中止となる場合があります。
※現在実施されているプランは記事内容から下記に変更になっております
「浄住寺住職と心の対話坐禅体験と普茶料理を食す」

スポット情報

エリア名西京
場所浄住寺
所在地京都府京都市西京区山田開キ町9
アクセス阪急電車「上桂」駅下車、徒歩約10分
京都駅から京都バス73系統「苔寺・すず虫寺」バス停下車、徒歩約5分
TEL075-381-6029(浄住寺)
(掲載日:2020年11月16日 取材:ENJOY KYOTO

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